「どうして? セィシェルはやっぱりわたしの事きらいなの?」

 スズランは俯き、足元を見つめた。
 ユージーンに拾われてから今まで、何不自由なく育てて貰った事に関しては感謝してもし切れない程だ。だが少し口の悪いこの兄の様な存在のセィシェルには、度々嫌われているのでは? 
 と思う事が多々ある。

「は? 馬っ鹿じゃねーの? 明日から収穫祭(リコルト・フェスト)だろ。お客の入りが倍になるから俺は今日から親父の手伝いで店に出れる事になったんだ。だから夜は忙しいの! それにこの洗濯干し終わったら仕込みの時間まで仮眠するし、もうお前とは遊んでやれないからな!」

 金の髪に太陽が反射して眩しい。少し垂れた目元で黙っていれば優しそうな印象なのだが、口を開けば憎まれ口ばかりでスズランは困惑してしまう。

「だったらわたしも一緒に仮眠するもん! お店のお手伝いもする…!」

「駄目だって! スズはまだこどもだろ。店には出れねーよ」

「セィシェルだってわたしと二つしか違わないのに…」

「へぇ、じゃあスズはもう十一にもなるのに一人で寝れないのかよ。まさか怖いのか? そんなお子様にお客の相手なんてムリムリ!」

「むぅぅ。怖くなんかないもん!」

 その馬鹿にした様な口調と物言いにカチンときたスズランは、洗濯物の山から布巾を一枚抜き取るとセィシェルの顔に向かって投げつけた。

「ぅわ! 何すんだよ」

「セィシェルのばか!!」

 そう叫びスズランは酒場(バル)の裏口へと駆け出した。

「ずるいぞスズ! 洗濯は?」

「知らないもん! セィシェルが一人でやって!!」

 裏口から中へと入り階段を駆け下ると、地下にある酒場(バル)の厨房で料理の仕込みをしているユージーンへと飛び付いた。

「わっ! スズ!? 突然抱きついたら危ないじゃないか…、一体どうしたんだい?」

 柔らかな金の髪に優しい目元。セィシェルと良く似た容姿で、その見た目通りに優しいユージーンが穏やかな声と手つきでスズランの頭を撫でた。

「っ…マスタぁ! セィシェルがもうわたしとは一緒に寝てくれないって! それに、今日からお店手を伝うってほんとう?」

「ああ、店の事だね? 本当だよ。だけど手伝うといっても今まで通り仕込みと少しの接客で店の閉店の時間までではないからね」

「……そうなんだ。じゃあ、なんでもう一緒に寝ないなんて言うの?」