5月に入った寝苦しい夜。
誰かの気配を感じて目が醒めれば。
闇に、ふたつの目が浮かんでた。
「ゆりちゃん……来たよ」
ニタア……と、大きな口が弧を描いて笑い、生臭い息が顔に吹きかかる。
思わず、絶叫した。
二段ベッドの上に寝ていた姉が驚いて室内照明を点けると、誰もいない。
父も母も驚いて、駆けつけてくれた。
あたしは震えながら、今あったことを必死に訴えた。
だけど……
「ゆずの気のせいじゃない? あたしは何も感じなかったけど」
寝起きで不機嫌な姉は、長い髪をかきあげながらそう呟く。
まだ小6、11歳だから配慮が足りなかったのも仕方ないけど。
「マジ、勘弁してよ! あんた最近魘されてうるさいんだけど。寝れなかったら顔に出るじゃん。明日も撮影あんだよ。あたしはいつでも寝れるあんたと違って、夜しか寝れないんだから!」
お母さん、寝る場所変えてよ。と姉は訴える。
「そうね。なら、書斎を使いなさい。あっちなら防音だし安眠出来るわね」



