異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。




気のせいじゃない。


男が笑ったのは。


口元はマスクで見えなかったけど、目がいやらしく弧を描いたから。


(なんだろう……首筋がぞわぞわする)


首筋を撫でながら、水汲みの桶を持ち上げた。


よろよろと歩きながら運んでいると、左手の重みが無くなるデジャブ。


『またこんなことしてたんだね』


桶を取り上げたのはライベルトではなく、ティオンだった。


『礼儀作法の教師であるマクベス伯夫人が退屈で死にそうにしてたよ』

「べ……別に。あたしには要らないじゃない、礼儀作法だなんて。言ったでしょ、あたしは平々凡々な平民だって。そんな分不相応なものを学んでも、無駄になるだけでしょう」

『無駄じゃないよ』

貸して、ともう片方も取り上げようとしたから。あたしは必死に守り抜いた。


『君は、新年祭で成人する僕の添い役の姫を務めるんだ。だから、ある程度教養やマナーをマスターしないと、恥をかくのは君自身なんだから』