『わ……わかりました』
肩を震わせながら、ハイドラーさんが唸るように言う。
『それがいい。人間は素直が一番だ。おまえが今の腕で相応の待遇を受けてない事はあの方もご承知……ならば迷うことは何もない。損はないのだからな』
黒づくめ男がなにかを話すのをじっと聞き入る。
“あの方”……って誰だ?
話の流れからすれば、ティオンのことじゃないのは確かだ。
あの男……なんだか怪しい。格好とか纏う空気だけじゃない。底知れぬ不気味さを感じる。
しかも……
目が、血のように赤い。
そう思った瞬間――
男の目が
こちらを向いた。
「!!」
まさか……見つかったの!?
あたしは直ぐにしゃがみこんで体を隠すと、そのまま斜面を滑り降り勢いよく駆け出した。
井戸に戻ると、荒くなった呼吸を沈めるために胸に手を当てる。
なんなの……あの男。
確実に、あたしを見てた。



