ハイドラーさんは40ほどのベテラン調教師さんで、ティオンや近衛が所有する馬の管理を任されてる。
あたしも動物好きだから、何回かここを訪ねて馬に乗せてもらった事があった。
困った顔をしながらも、頼み込めば最終的には折れて、自ら乗馬指導をしてくれた。
立派な体格の割には優しい。愛妻と2人の娘さんをこよなく愛する、ごくふつうの男性だ。
だけど……そんな彼が震え青ざめるなんて。一体何があったのか。気になるじゃない。
あたしはそろそろと木にしがみつきつつ、灌木を抜けて会話が聞こえる場所まで近づこうとした。
……だけど。
「勘弁してください!」
ハイドラーさんが叫びながら、がくりとその場に崩れ落ちる。
「ならば、条件を飲むことだ」
黒いマスクで顔を隠した男が、くぐもった声で彼に言う。
赤いマントをざっくりと体に巻き付け、他は黒いシャツにズボン。黒いブーツ。見るからに怪しい風体の男だった。
だけど。もう一人いた人物に目を疑う。
――ライベルト!?



