「……って! そういえばあたし、肝心なことを訊き忘れてたじゃん!!」
離宮の厨房にてムンクの叫び状態になったのは、夜半近くになってからだった。
明日は久しぶりに地方へ視察を兼ねた巡回を出来る、ということで。前々から準備していたとある物の最終仕上げと……せっかくのバレンタインだから、ということでプレゼントとして配れるお菓子を大量に焼いている最中。
「まさか、ユズ。ティオン殿下のお菓子忘れてたの?」
エプロン姿で手伝ってくれるキキに指摘され、がっくりと肩を落としながら力なく頷くしかなかった。
「とはいっても……今から本格的なお菓子を作るのは難しいですね。材料は粗方使っちゃいましたし」
キキの他にも手伝ってくれる若い侍女が思案顔で、出来上がった焼き菓子を眺めてる。
すると、ピンと閃いたように侍女の一人が声を上げた。
「この焼き菓子をベースにアレンジすればいいんですよ!」
そして、彼女はこっそりあたしに耳打ちしてくれる……んだけど。
それはとんでもない方法で。あたしは顔があり得ないほど熱くなった。
「む……無理無理無理! そんな恥ずかしすぎること出来ないって!」
「あら、ティオンバルト殿下にたまには甘えるのも必要ですわよ? 男性って好きな女性にたまには甘えられると嬉しいそうですから」
“好きな女性”ってのに最大級のクエスチョンはつくけど。経験者は語る情報を鵜呑みにして良いのやら。
あたしは手元にある乾燥した薬草を磨り潰しながら、あれこれあり得ない想像をして頭をぶんぶんと振った。
(ないない! 絶対にあり得ない――っ!!)
初めて明けるなと念じた夜明けは、非情にもあっさりやって来た。



