「確かに、ハルバード公爵のセシリア嬢とは幼なじみだったけど、ね」
ティオンは新しく淹れなおした緑茶をティーカップに注ぎ、手渡してくれた。
「ありがとう……そうなんだ」
「でも、厳密には幼なじみとは言えない。大人の思惑はどうにせよ、多くて年に2、3度公式行事で会うくらいで、話をしたこともろくにないんだ。そんな相手と結婚しろ、って言われても無理だよ」
ティオンはため息を着きそうな口調で嘆くけど。
「それを言うなら、あたしとだってほぼ初対面同然でいきなりプロポーズして来たじゃない」
「それは……」
ティオンはどうしてか一瞬顔を歪ませると、ティーポットをテーブルに置いて小さくため息を着いた。
「やっぱり……憶えてはないんだね」
ポツリ、と放たれた呟きは、よく聞こえなくて訊き返そうとする前に、ティオンがあたしを見てにっこり笑う。
「そういえば、明日はやっと巡回に行けそうだよ」
「え、ホント?」
ティオンの発言に沈んでいたあたしの気持ちは一気に浮上していった。我ながら現金だと思うけど、仕方ない。
「うん、待たせちゃってごめんね。視察も兼ねて遠方で一泊する必要があるから、いろいろ準備するといいよ」
この時の“いろいろ”という意味が、ティオンとあたしとで食い違っていることを、その時は気付かなかった。



