いつになくティオンの顔が近い。だけど、彼は一切の感情を放棄していて。綺麗な顔がまるで空っぽの人形のように見えた。
また……こんな顔をさせてしまうなんて。
彼を支えていこうと決めたのに、何をしているのあたしは!
震えそうな身体を叱咤しながら、あたしはティオンをまっすぐに見つめる。
そして、彼を抱きしめようと両手を上げたところで、逆に彼にその腕を捕らわれた。
「逃げたいの? 僕から」
地を這う様なティオンの低い低い声音は、今まで聞いたことがない。綺麗な人形から生まれるには人間らしいそれで、やはり彼が感情を押し殺しているのだと知る。
あたしは違う、という意思表示で首を横に振った。
「あたしはティオン……あなたを支えると誓った。この世界に残ると決めた時から。
だから、信じて。あたしはライベルトと何もないって。
あたしだってティオンを信じてるもの」
あの時の重要な誓い。あたしがここで生きていく決意をする上で、決して忘れられない瞬間。その気持ちはまだ揺るがない。
それに……
ティオンはあたしという婚約者がいると内外に示されたけど。決して全ての人に歓迎されて認められた訳じゃない。
中にはあたしの出自を疑問視して、ティオンに別の縁談をもたらす人たちがいる。
それは宮廷だけじゃない。国内外で同様の動きがある。
中には王族皇族からの縁談もあって、その話は外交上無下には扱えない。だから、ティオンが断るのに苦労をしているのを見聞きして申し訳ない気持ちもあった。



