異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。




だから、あたしはあえて椅子から立ち上がると、つかつかと彼に歩み寄る。


それから腰に手を当てると、そのまま彼を見上げた。ライベルトはあたしより頭一つぶん背が高い。


そして、あたしは彼にこう言ってやった。


「アンダトル」


その名前を口にした瞬間、ライベルトの冷静な顔に僅かな動揺が浮かんだ。それを見たあたしはにっこり笑ってやる。


「やっぱり、ライベルトもそのお菓子が好きなんでしょ? だって、懐かしい故郷の味だもんね」


あたしが出した名前のお菓子は、炒った木の実に溶かした甘い衣を絡めただけの素朴なもの。 豊かな土壌を持つセイレスティアではあまり見られない種類のお菓子だった。


「ディアン帝国の土壌は基本的に痩せている上に、標高も高く天候条件もよくない。だから、作る農作物の種類も限られてしまう。あなたが生まれ育った離宮のあったネクサイ地区は特にそうだった……でしょう?」


あたしは挑むようにライベルトに強い視線を向けた。
自分を律して決して踏み込まない、踏み込ませない彼に苛立ちを感じて。


あたしはティオンの婚約者という立場にあるけど、ライベルトだって大切な人だ。


セイレスティアに来てから親身になってあたしを支えてくれた、数少ない一人だから。


だから、そんなふうに壁を作られるのはとても悲しかった。