『ごめんね……』
なぜか、ユズの悲しげな声がいつまでも耳に残っていた。
「ティオンバルト!」
鼓膜を震わせるその声で、僕は意識を取り戻す。
まぶたを開けば、目の前にはライオネル兄上の顔。王妃様とよく似たとび色の瞳が、心配げに僕を見ていた。
ぼんやりした頭でちらっと周りを見れば、ここは僕の部屋じゃない。しっとりとした赤を基調とした内装や調度品に見覚えはなかった。
「ライオネル兄上……?」
僕が目をぱちぱちと瞬き呼べば、ライオネル兄上は心底ホッとした顔で僕の額に手を当てて下さる。
剣を握る節くれだった大きな手はひんやりとしていて、何だか気持ちいい。目を閉じてその感触に心を委ねれば、兄上はホッと息を吐いた。
「よかった。どうやら熱は下がったようだな」
「まったく、心配かけやがるよなティオンバルトは。ライオネル兄(にぃ)が血相変えて俺の部屋に飛び込んできたから、何があったかと慌てたぜ」
ライオネル兄上と違い乱暴な言葉遣いをするのは、第二王子であるアレクシス兄上。落ち着いたライオネル兄上と違い、いつも動いていないと気が済まない、正反対の性格をしてる。
けれど。何をしても完璧に近い万能なライオネル兄上が、弟を頼ったとなれば。それは相当な事だと理解できた。
「アレクシス兄上までどうして?」
僕が当然の疑問を口にすれば、腕を組んだアレクシス兄上は眉を寄せて僕に厳しい目を向けた。
「……おまえ……自分のしでかしたことを解ってないのか? 秘技中の秘技を使って異界と繋がりを持とうとした挙げ句、あちらの“闇”をこちらに引き込むところだったんだぞ!」



