異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。




王宮の奥にある専用の鍛練場で、兄たちと剣の稽古をしている最中だった。


11の僕はまだ体も小さくて、体力も力もない。けれど、ユズに逢えた時に強くあるべきだ、と兄達に頼み込んで特別に訓練を受けていた。


殊に5つ上のライオネル兄上は騎士としても相当な実力があって。僕は彼を目標に日々努力を続けてる。


基礎訓練を終えて兄上相手の軽い打ち込みの最中、それは唐突に起きた。


木刀を振り上げた瞬間、額が熱くなって見えない刻印が脈打つ。熱を帯びたそれが心臓より強く鼓動を伝え、僕の目の前に闇が広がってゆく。


そして、蠢く闇の中で、聞き慣れた声が響いた。


「――助けて! 誰か助けて……お父さんを助けてえ!!」


その悲痛な声は聞き慣れた声音でないけれど。ユズのものだ、とすぐに解った。


「ユズ……どこだ? どこにいる? 僕はここだ。助けるから居場所を教えて!」


切羽詰まったユズの訴えは延々と続いている。僕は必死になって探し回った。


けれど。いつもは明るいはずの空はどこまでも暗く、足元は見えない闇が這う。幾ら懸命に声を張り上げようが、手を伸ばそうが。掴めない。


ユズとのささやかな絆が――見えない。


けれど。


もがいてるうちに、一瞬だけ見えた。


ユズが白刃に襲われる瞬間を。


「やめろ……やめろおおっ!」


僕は、ユズを救おうと持てる魔力の全てをそちらへぶつけた。


そして……。


意識が闇に飲み込まれ、落ちた。