異世界にて、王太子殿下にプロポーズされました。




僕はひたすら彼女を抱きしめた。その身体から今までにない穏やかで暖かな力を感じて、ささくれだった感情が全て凪いでゆく。


春の木漏れ日の下、母の膝枕で微睡むような。そんな心地よさを感じた。


けれど、次に必ず逢えるという保証はない。今回はたまたま様々な条件が運よく重なって触れあえたけど、今彼女と別れたら次に逢えるのは何日後か。何年後か。


いや、もしかすると一生逢えないかもしれないんだ。


(……そんなのは嫌だ!)


せっかく逢えた言霊の姫。彼女は僕を友達と言ってくれた。必要としてくれた。もっともっと話したい――一緒にいたい。


けれど、現実でどちらかが目覚めれば、今の繋がりは断ち切れてしまう。その前に彼女に何かを渡して繋がりの糸口を作ろう、と思ったら。すぐに思いついたのが緑色の腕輪のことだった。


僕は手のひらにある黒水晶の代わりに、彼女の手のひらに緑色の腕輪を載せた。


「ありがとう、これは預かっておくよ。その代わりに君はこれを持っておいてくれる?」


「わあっ……キレイ!」


腕輪を渡すと、女の子は目をきらきらと輝かせた。 やっぱり綺麗なものが好きなのは女の子らしい。苦笑いした僕は、彼女に名前を訊ねた。


「僕の名前はティオンバルト……ティオンって呼んで。君は?」


「あたしは、ゆず。ひだか、ゆずだよ! くだものと同じ名前なの」


にっこりと明るい笑顔は、本当の太陽みたいに眩しくて。僕の心を浮き立たせてくれた。