クリスマスイブは一人きりで過ごしていた。
琴音に会いたいが、わがままは言えない。

朝からフライドチキンを作って、買ってきたケーキをもそもそと食べた。
琴音からの電話を待っている、女々しい自分を感じながら時が過ぎるのを待っている。
曲を作らなきゃと焦る気持ちと、琴音への想いが整理しきれずにいる。
テーブルに置きっぱなしの携帯が鳴った。

「……はい……」
「おはようございます、橘倖太様ですか。坂本と申します」
「……あ、はい、おはようございます」

映画監督の坂本だ。

「水原琴音さんの件で、事務所の電話がつながらなくて」
「申し訳ございません、事務所もスタッフが少なくて。ご用件は」
「『滅びの街』の主演を、水原琴音さんにぜひお願いと思いまして」
「……本当ですか!」

ほかのキャストも決まり次第、連絡しますといい、そこで電話は終わった。
打ち合わせは年明けだ。



……最高のクリスマスプレゼントだ。


電話を切ると、すぐに琴音の携帯にかける。
なかなか出ない。

ケーキでも食べているのか?


1分近く、鳴らし続けて、ようやく琴音が電話に出た。

「……倖太?」
「映画決まったよ!」
「……えっ……」
「良かったな! 主役の七海晶役だ!」