本人に聞いてみよう、と倖太の家を訪ねる。

倖太は珍しくピアノを弾いていた。
荒れ果てた庭に似つかわしくない、軽やかなメロディーが響く。

「卒業アルバム?」
「美香さんの持ち物にないか?」
「ありません」

「ずいぶんはっきり言うな」
「母は高校卒業後に、すぐ家を出たと言ってました。実家には帰ったこともないみたいなことを。卒業アルバムは見たことありませんね」
「……美香さんの実家は?」
「青森だということしか知りません。行ったことありませんから」

立花美香の仏壇に手を合わせる。

綺麗に掃除をされた仏壇には、彼女のアイドル時代の可愛らしい写真が飾ってあった。

バラの香りの線香の煙が目に染みた。