「通夏さん。僕、やっぱり通夏さんには到底敵いません。」
僕は通夏さんの背中の赤ん坊を見て、
小さく笑った。
通夏さんは野菜を切りながら、
台所で僕に背を向けたまま話をはじめた。
「何を言ってるの。終平がいたからあの人だって笑って空を飛べたんだ。終平がいたから……」
通夏さんのその声は震えていた。
僕は泣きそうになったのをこらえて、笑った。
「通夏さん……僕は自分勝手な男です。
どうかそんな僕をお許しください……」
精一杯の言葉だった。
でも通夏さんは悔しそうに言った。
「ただの学生だっていうのに……急に試験なんて受けさせられて…お前はまだ若い。18なんだ…。」
って………。
「通夏さん。あの人は今……」
「空を飛んでいる。誰よりも幸せな灰になって…」
今日も寝れない真実が僕の胸に迫る。
嘘になってしまえばいいのに……
そう願うのはこの世界で僕だけなんだ。
「終平…鈴奈さんが好きでしょ?」
僕は突然の言葉に驚いて、
通夏さんの背中を見つめた。