どこにいっても、もう先生に会えない学校。
もう、これで本当に先生には会えなくなってしまった。


先生を探しに行くことはできる。
家を訪ねることもできるし、病院を探すことだって。


だけど、それは許されないんだ。


ひとたび学校を離れたら、私たちは教師と生徒でさえない。
天野先生は、私の先生でさえなくなる。

私はただの、天野陽という男性に恋をする、一人の女でしかなくて。


先生を探して会いに行っても、迷惑なだけなんだ。


会いたいから会いに行ける関係では、もうないから―――




もう、私には生きている価値がないと思った。




うっすらと雪の積もった街を、とぼとぼと帰る。

心の中の悲しみはそのままに、雪はすべてを塗りつぶしてしまった。

どこまでも白が続いている。


先生と過ごした日々は、この雪の下に隠されてしまったみたいだった。


短かったけれど、この心が陽だまりのように温かかった日々。
切ない恋だったけれど、それでも確かに、先生はここにいた。
毎日、数学科準備室の机に―――




こんな寒い日には、ラーメン屋さんに連れて行ってほしい。


初めて先生に送られて帰った日。
先生が教えてくれたあのラーメン屋さん。


先生の温もりと、スープの温度で、私の心の中の氷の塊が溶けだした。

雪解けのような涙がこぼれそうになって。


あの日、言えなかったこと。

先生に話せばよかった。


どうせ、ばれてしまうのなら、全部―――――




そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にかあの路地を曲がっていた。

その先に、赤い提灯が見えてくるはずだった。



「ない―――――」



せき止めていたものが決壊するように、涙がこぼれ落ちた。

嗚咽が止まらない。

こんなにも心が揺さぶられたことは、ないというように。



「どうしてっ、」



まるで、先生と一緒に消えてしまったようだった。

先生は、もう二度と帰ってこないと。

心のどこかで認めたくないその思いが、現実となって胸に迫ってくる。



天野先生の、あの夜の温もりごと、思い出が消えてしまったみたいで。

私は、しばらくその場所にうずくまっていたんだ。