公園に静かに止まった車。

私は、しばらくシートにもたれていた。


名残惜しかったんだ。

先生の近くにいたかったんだ。

これがもう、最後だとしても。



「笹森さん。」


「……は、い。」


「私のことは、忘れてください。」



我慢していた涙が再びあふれて止まらない。

言われてみれば、先生に出会ってから、まだ半年も経っていないんだ。

こんなにも、長い月日をあなたの隣で過ごしていたような気がするのに。

こんなにも、深く先生のことを理解していたつもりなのに。


私は、何も知らない。

先生のこと、何も知らない―――



「さよなら、先生。」


ドアを開ける。

冷たい空気が肌に触れて、この胸がもう一度、切り裂かれるように痛んだ。



「笹森さん―――」


「先生、……天野先生。」



さよなら


さよなら


さよなら


さよなら―――




学校で会うことはあっても、もうあなたには“会えない”―――




バタンとドアを閉める。

すると、反対側のドアから先生が降りてきた。




「笹森さん―――」




街灯に照らされた先生のシルエットが、闇に浮かび上がる。

その姿を一瞬だけ目の端に捉えて……

私は歩き出したんだ。




「笹森、さんっ、」




先生、どうして―――

どうして泣いたりするの?




振り返りたくて。

振り返って、先生に思い切り抱きつきたくて。




だけど、振り返ったら負けだと思った。




振り返ったら、これ以上先生と関わったら、取り返しのつかないことになってしまう―――





「さよなら、先生。」




自分だけに聞こえる大きさの声でつぶやくと、私は震える足を必死に進めたんだ。