「夜景、綺麗ですね。」


「ええ。雨の日は光が滲んで、より一層美しいですね。」



食べかけたクリームソースが冷めていく。

今日は一段と冷え込んで、雨が雪に変わりそうな寒さだった。


だけど、寒ささえ愛しく感じる。

先生のそばにいれば。



「笹森さんに訊きたいことがあったのです。」


「何ですか?」



神妙な顔をする先生。

私は、少しびくびくしていた。


先生の質問は、いつも怖い。

答えられないことが多いから。



「クリスマスに、予定はありますか?」



「え、」



もう少しでクリスマス。

みんな、センター試験でそれどころじゃない。


でも、私は違う。



「予定は、ありません。」


「家で祝うということは?」


「そんなこと、」



一度も、と言おうとして口を噤んだ。

クリスマスを祝ったことが、物心ついてからも何度かあったんだ。

クリスマスソングを歌って、一緒にケーキを食べて。

豪華ではないけれど、いつもよりちょっとだけ特別な料理が並んでいた。


お父さんもお母さんも、笑っていた―――



「笹森さん?」


「あ、……いいえ。」


「悲しいこと、思い出させてしまいましたか。」



先生がそっと目を伏せる。

悲しいこと―――

そうだね。


他の誰かにとっては、それはただの幸せな記憶かもしれないけれど。
私にとっては、そのころの幸せは思い出すだけで、この心を切り裂くように痛みが走るんだ。

それが、幸せな記憶ならそうであるほど。



「クリスマス、一緒に過ごしましょう。」


「先生……。」


「約束です。」


「雨が降らなくても、ですか?」


「ええ。」


「雪が降ってもですか?」


「もちろん。」


「先生!」



心の中で大好き、と唱える。

本当は、先生に抱きつきたくて仕方がなかった。


先生と過ごす日々は、あまりにも幸せで。

私は、心のどこかで油断していたんだ。



本当は、先生に恋をしてしまったときから、確かなものなんてなにもなかったのに―――