それでも信じられなくて。
もやもやした気持ちのまま、席に戻った。

ティーテーブルに頬杖をついて、窓の外を見ている楓が、とても大人びて見える。

椅子を引くと、その音で彼女は、はっと私に向き直る。
そして、少しだけ目を見開くと、うつむいた。



「笹森さん……。」


「なに?」


「泣いた?」



はっとして、目をこする。
あれだけ泣いたんだ。
きっと、目は腫れてるし、鼻も赤くなっている。



「やっぱり、笹森さん、天野先生と、」


「ちがうよ。」


「でも、」


「付き合っては、いないよ。」


「付き合っては?」


「……うん。」



楓は、悲しそうな顔で私を見た。
そんな顔、しないでほしいのに。



「笹森さん、天野先生のこと好きだよね。」



部屋の角に追い詰められたみたいに、私はうなずくことしかできなかった。
その気持ちを否定する嘘だけは、絶対につけなかったから。



「やっぱり。」



誰もいない喫茶店に、冷え冷えとした空気が流れる。

やっぱり、友達が出来たなんて、間違いだったと思った。

一番大事な先生への気持ちを、片付けるよう迫られるのなら。



「ごめん、笹森さん。噂の話なんかして。」


「え?」


「笹森さんの気持ち、何にも考えてなくて……ごめん。」



楓は、うつむいたままで言った。
声が心なしか震えている。



「私、笹森さんのこと、応援するよ。」


「応援……。」


「先生が病気だからって、関係ないよね。笹森さんが好きなら……関係ないね。」



噛みしめるように繰り返して、楓は言った。



「私、全部内緒にする。絶対誰にも言わない。だから、安心して。」


「……ありがとう。」


「その代り!」



楓は突然、私の手を取った。



「友達になろう!」



驚いて何も言えずにいると、楓は笑った。



「唯って、呼んでもいい?」


「うん。」


「私のことは、楓って呼んで!」



屈託のない楓の笑顔を見ていると、さっきまでの悲しい気持ちが優しく収まっていくようだった。
こんなにも突然、友達ができるなんて思ってもみなかったから。



「楓、ありがとう。」


「なによー、もう!」



照れたように笑う楓の顔を見ていたら、何もかも忘れていられる気がしたんだ―――