席を離れた瞬間から、ぶわっと涙があふれた。

慌てて駆けこんだトイレの洗面所で、水を出しっぱなしにして何度も顔を洗う。
だけど、涙はごまかせなくて。

やっぱり、後から後からこぼれて、止まらなかった。



「先生……」



つぶやくと、自分の声にまた切なさが込み上げてくる。

先生の声。
先生の笑顔。
先生の抱きしめてくれる温度。
先生とのたった一度のキス。

だけど、先生は私には教えてくれなかった。
私のこと、守ってくれた先生が。

大事なこと、たった一人で抱えて。


どんなに苦しいだろう。
どんなに切ないだろう。


たった一人で病気と闘っているなんて。



「先生。」



その切ない笑顔を思い出したら、胸が苦しくなって。


ねえ、先生。

ごめんね、先生。

私のこと、大事にしてくれる先生の手の中から、いつもするりと逃げてしまうのは、私だったね。


もう、逃げないよ。
先生と、まっすぐ向き合うから。


一時でもいいから、私を愛して、先生。


未来なんて、どうでもいいから―――