そして、テストの時期がやってきた。
これは、私たちにとって高校最後となる期末試験だ。
どの授業も演習ばかりで、テストもそういう形式だった。


先生のところに行けなくなって、だからテストもできないなんて嫌だ。

私は、数学が好きだって先生に言ったのに。

テストができなかったら、本当に先生に嘘をついていたみたいで。


もう先生が、私のこと気にかけてくれるはずもないのに。
私は一生懸命、テストの勉強をした。

進路だって何も決まっていなくて、将来のことなんて考えたこともないけれど。



だから、最後のテストでクラス最高点だった時は、本当に嬉しかったんだよ――



「笹森さん。」


久しぶりに先生に呼ばれて、教卓の前まで震える足で進んだ。


「よく頑張りましたね。」


すぐに覗き込んだ点数は、さっき先生が黒板に書いたばかりの、“最高点”で。
恐る恐る見上げた先生の目は笑っていて。
やっとやっと、先生に認められたんだと思って。
心の底から湧き出すような嬉しさが、抑えることのできないくらいの嬉しさが溢れ出す。


先生が、次の言葉を言うまでは――


「もう、補習は必要ありませんね。」


「えっ、」


さっと青ざめた顔で、漏らした声は、先生には届かなかった。

先生は次の生徒の名前を呼び、私は置き去りにされる。



ひどいよ。
先生、言ったよね。



「明日も明後日も、その次も。ずっと補習です。」

「私はどこにもいかない。巣立つのはあなたじゃないですか、笹森さん。」



言ったよね。


私がどんな思いで頑張ったのか、知らないくせに。
テストの点が良かったからって、そんなふうに……。


自分でも、理不尽だって分かってる。
先生の言ったことは、何にもおかしくない。


だけど、心がねじれそうだよ。

先生のこと、好きになればなるほど。

私にとって大事なことを、簡単に切り捨ててしまう先生が憎らしくなるよ。



先生に罪はないのに。

私はこんなに苦しんでいるのに、どうして気付いてくれないんだと、詰りたくなる。



94点と書かれたテストを、私は机の中でぐちゃっと丸めた。

こんな点数なんて、意味がないと思った。

だけど。

先生のことを嫌いになることだけは、どうしても、できなかった――