振り返ると、そこには晴れ晴れとした顔で笑う、天野先生がいた。


左手の薬指の、指輪は消えていて。




「先生―――――」





その笑顔が、どんどん涙に霞んでいく。


そんなにつらかったんだね、先生。

私には、想像もつかないほどの悲しみを抱えていたんだね。

15年も、何も言わない奥さんのところに通い続けるなんて。


計り知れない葛藤を越えて、それでも先生はここに来てくれたんだね。

私に愛していると、言ってくれるんだね―――





椅子から立ち上がって、先生に真正面から飛びつく。




「大好き、先生。」




ほっそりしたその胸に、顔を埋めると、先生の匂いが胸いっぱいに広がっていく。

幸せが溢れ出す。

ずっと言えなかった言葉を、やっと、やっと伝えることができて。





「ありがとう。」





深い深い優しさのこもった声で、先生は囁いた―――――