そのままずっと泣いていて、体が冷たくなった頃。

足音がして、顔を上げた。


「唯……」


「お母さん、」


私を見下ろしているのは、ドレスを私服に着替えた母。
乱れた髪と、息をそのままにして。


「よかった。唯……、よかった。」


母は泣いていた。

私はその意味が分からず、目を見開いて母を見つめる。


「ごめんね、唯。ごめんね。お母さんが悪かったの。」


謝られて、それでも意味が分からなくて。


「無事でいてくれて、ありがとう、」



ああ、そうか。

お母さんは、心配してくれたんだ。


あまりにも久しぶりで、その意味さえ分からなかった―――


そうか。


母からすれば、心配だったんだ。

私が、見知らぬ男の人に買われていくのを、その目で見たならば。



「大丈夫。お母さん、私、大丈夫だから。」



泣いているのは、違う意味なんだよ―――



嬉しかったから。

先生が、私のこと助けに来てくれて。

切なかったから。

この手をまた、離してしまって。



それに、今、こうして。


お母さんが私のために、涙を流しているということが、



嬉しかったから―――




「帰ろう、唯。帰って、化粧落とそう。」


「うん。」




子どもに帰ったみたいに、母に手を引かれながら歩く。


このたった一度の夜で、今まで愛されなかった分が、すべて戻ってきたような気がしたよ。



私の心は、太陽のように温かくて。




ねえ、先生。

今ならあなたにも、この温もりを分けてあげられそうなのに。




あまりにも切ないその表情を、和らげてあげられそうなのに―――――