ルミに声をかけようとした沙樹の言葉は、憎悪を含んだ瞳に阻まれた。沙樹の中で警鐘が鳴り、ゴクリと喉が鳴った。


「これ書いたの、あんたでしょ?」


 バンッ! と、大きな音を立ててテーブルに叩きつけたのは、沙樹が先日「peep」で書いたルミと里浦の記事だった。雑誌から引きちぎられたそれは、憎しみを込められたように荒々しく破かれていた。


「この雑誌の出版社、沙樹の勤務先だよね? あんたが書いたのかって聞いてんのよ!」


 思わず気圧されてしまいそうなルミの剣幕に、沙樹はぐっと両膝の上で拳を握った。


「あんたが書いたんじゃなかったら、この写真撮ったのは誰!? 言いなさいよ! そのためにここに呼んだんだから」


「え……?」


 その言葉に驚いて顔をあげる沙樹を、鼻で笑うとルミは言った。


(もしかして、最初からこの話をするのが目的だった……?)


「この雑誌が出てから、私の生活はめちゃくちゃよ。なんなら人権侵害で訴えてもいいのよ? あんたが撮ったって認めなさいよ」


「そ、そんな……」


(だめ、ここで認めたらこっちの負け……)


 じりじりと迫る焦燥感を抑えつつ、沙樹はなんとか話の軸を変えようと思いついた言葉を口にした。


「ルミ、里浦隆治には婚約者がいるって知ってるの? それに、クラブに入り浸ってるとか、良くない噂も聞くよ」


「だったら何? あんたの仕事って、人のプライベートを盗み撮りして食いものにしてるわけ? ふん、随分な職業なのね」


「ち、違う! そんなんじゃないよ」


 沙樹は自分の仕事に誇りを持っていた。それを中傷するようなことを言われて思わず声を荒らげてしまった。


「私はただ真実を知りたいだけ……それを自分の言葉で人に伝えたいの。だから私の仕事のこと、そんな風に言わないで」


 毅然とした沙樹の言葉にルミは一瞬目を丸くしたが、すぐに険しい表情に変わった。