父親がどのような状態で死んでいたかは知っていた。けれど、警察はそれを不慮の事故として片付けてしまった。しかし、沙樹には腑に落ちない点がいくつもあった。


「確実に先生の死の裏に“渡瀬会”が絡んでいる……そう思った俺は、いつかこの手で“渡瀬会”の黒幕を握り潰すと決めた」


「……だから逢坂さんは刑事に?」


「単純だって笑えるだろ……でも、そんな生活も長くは続かなかった。俺が“渡瀬会”の息がかかった人間だって、タレコミされたせいであっけなく免職処分」


 そう言いながら逢坂は自嘲気味に笑った。そして、苦渋に顔を歪めると、逢坂の口からぽつりとつぶやきが溢れた。


「けど、そんな時に昔からの知り合いだった波多野さんに、カメラマンとして“渡瀬会”を追う機会をもらった。元々写真を撮るのは好きだったからな……けど、先生のように綺麗な写真を撮るには、人間の裏の汚い部分を見過ぎちまったな……俺にはもう写真の感性はない」


「そんな……」


(やだ……逢坂さん、そんなふうに自分を責めないで!)


「……もし、先生が……あの時、俺に出会わなけれ―――っ!?」


「だめっ!」


 沙樹は咄嗟に逢坂の胸の中に飛び込むようにして抱きついた。その衝動的な行動に逢坂の言葉が途切れる。


「その先は……言わないでください……じゃなきゃ、父が報われませんから……」


「っ……」


 頭の上で小さく息を呑む気配がした。沙樹は逢坂の服にしがみついて唇を噛んだ。


「お前……女にしておくのが勿体無いくらいだ」


「な、なんですかそれ」


 やんわりと頭を撫でられて心地よさを感じていると、ぐっと背中に回された腕に力が入った。


「逢坂さん……」


 肩から脇、そして腰のラインに手を這わせられると、ぶるりと全身が小さく震えた。