「うわっ、キモ!!」





無遠慮な声が背後から降ってきた。



僕は不愉快さを隠さずに険しい表情で振り返る。






「………聡子。


今度は何の用?」





聡子は僕の肩に手を置き、後ろから机の上の答案を覗きこんでいる。





「うわぁ、物理は98点かぁ。


げっ、数学と世界史は99点!!」





「ちょっとケアレスミスしちゃったから」





「で、あとは………古典と英語と日本史と化学と………残り全部100点!?


キモいっ、キモすぎる!!」





「………聡子、キモいっていう単語は間違いだよ。


正しくは気持ちが悪いと言うべきであって、断じてそのように不用意な省略形を使うべきではない。



そもそも、この名著『日本語文法・品詞論』をひも解いて形容詞の歴史を鑑みれば。


たしかに「い」という接尾辞をつければあらゆる単語を形容詞化できるわけだけど」





「あーもう、うるっさいなあ! そんなゴタクはいらないっての」





「……………」






僕は聡子に口を塞がれ、何も言えなくなってしまった。