ドクンドクンと鼓動が速い。

そんな己に気づき、白露は彼女を抱きしめる腕を緩めた。


(なぜだ。なぜ白良のこととなると、こうも落ち着かなくなる…?取り乱す…?)


納得のいく答えが見つからず、腕の中の白良を覗き込む。

「白露…?」

彼女の声に、また胸がうるさく高鳴った。


(傍にいれば、わかるのか?)



その日、それから白露はずっと白良と離れなかった。

台所で料理する彼女のすぐ後ろに立っていたり、厠へついていったりと、迷惑極まりない。

さすがに厠は困ったが、それ以外では白良は白露の好きにさせていた。

なぜか彼が傍にいると安心するのだ。


(おかしいわよね。彼は鬼なのに…)


鬼よりも、今の白良には人間の方が恐ろしかった。

村の大人達。

宗二。

一人でいると頭の中が恐怖でいっぱいになる。

しかし――。


ギュッ。


腰に彼の腕が回されるだけで、落ち着きを取り戻した。

そして思い出す。


――我を呼べ!そなたを助けられるのは我だけだ!!


(……っ…反則ですよ、白露…)


嬉しかった。

こんなにわかりやすく守ってやると宣言され、嬉しくないわけがない。


(ありがとうございます…)


口には出さず、白良は白露の腕にそっと手を重ねた。