俺は授業が終わると、早々に学園祭の準備を抜け出して、図書室へ向かった。
普段なら、来ないようなところだけれど。
目の前にずらっと並んだ、分厚い本に目を細めながら、手に取る。
そこには、万葉集や、短歌とタイトルのつけられたもの。
そして、最後のページについている貸出カードを一つ一つ丁寧に確認していく。
……もしかしたら、ここでゆりの父親が本を借りているかもしれない。
なら、手がかりだって───
そう思いながら、一冊一冊めくっていく。
そして───空も茜色から薄暗く青色に染まり始めた、そのとき。
「……あ」
一冊の本の貸出カードに白井健二と書かれていた。
慌ててページをめくると、確かに書いてある。
『秋の野を我がわけ来れば朝霧にぬれつつ立てりをみなへしの花』



