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茜さんから、少々の話を聞いた。
まず、ゆりの父親───白井健二という人の話。
俺は、断片的にしか知らない。
それは、あの日、俺が熱でうなされたとき、ゆりが話してくれたもの。
───ゆりの父親はもう、この世にいない。
ゆりが小学生のころ、翔太が生まれる前に、亡くなったのだと。
当時、茜さんは翔太を身ごもっていて───ゆりの父親は、気遣って、本当に最後の最後まで病気のことを話さなかったという。
「あの人は、とても不器用な人だったの。
……それに、人のことばかり気遣うような大ばか者でね」
茜さんは、そういって目を伏せながら、悲しそうに微笑んでいた。
そして、そのことに唯一気づいたのが───ゆり、だった。
ゆりは、誕生日プレゼントをくれた父が、もう長くないことを知っていた。
けれど、きっと治ると信じて───思い続けて、きた。



