『ゆりには、いっぱい迷惑をかけたわ。
だから……もう、いいのよ』
知らない、男の人が座っていた。結婚を前提に、付き合っていたのだと。
もうすぐ、私の誕生日だから、区切りをつけようと。
それを見ただけで私の背筋が凍るように、ぞっとして───お父さんは、一人しかいないのに。
私のお父さんは、いつまでだって、どんなにたっても───
あの、不器用で、寡黙で、何を考えているの分からなくて、
でも、あのぎこちなく微笑んでくれる───お父さん。
それなのに、他の人が私のお父さんになるだなんて、
考えただけで胸が張り裂けそうに痛くて、怖かった。
「……い、やだ……」
自分の体を抱え込むように、両手で抱きしめると、涙が出てきそうになる。
お父さん、逢いたい。
逢って───謝りたい。
もう一度だけでいいから、ゆりって呼んでほしかった。



