声がした。
一瞬疑うほど、切羽の詰まった感情をぶつけるだけのはけ口のような声は、ゆりの声だった。
何だと、思ってドアを開けると、曇っていた声はより一層はっきりと、聞こえる。
「絶対、そんなの嫌ッ!!
どんなにその人が好きだとお母さんが言っても、私はっ、認めないから……!」
その声の後、バンっ!と鋭くドアが閉まる音が聞こえて、どたどた走り去る音が聞こえた。
翔太はそこで待っていて、と声をかけた後、一階に下りると、
「……あら、皐月くん」
リビングのドアの前で、悲しそうに微笑みながら、茜さんが立っていた。
「今のは……」
「ごめんなさいね、驚かせちゃって」
ゆりは、と聞こうとしたけれど玄関にゆりの靴がないのを見て、俺はまた視線を茜さんに移した。
「何があったんですか、」
ふと、少しだけ開いたリビングのドアの向こうに誰かいるのが見えた。
人が来ると言っていたけれど───隙間からはよく見えないけど、男?しかも、茜さんと同じくらいの年の。



