「……お母さんとさ」


ふいに、俺がそいうとゆりは一瞬止まったけれど、


「うん」

と平然を装って返してくれる。


「名前、ちゃんと言えたよ」

「……うん」


「いろんな話をした、俺が知らない数年間のこと」


「うん」


「……ありがと、ゆり」

「うん」


もし、ゆりがいなかったら。きっと俺は、こうやっていることもできなかった。

もし、ゆりが勇気をくれなかったら。きっと俺は今も、お母さんの面影を思い出すこともしなかった。

もし、ゆりがいてくれなかったら……。


「それから」


「うん」


俺は、その先の言葉を言ったらゆりはどんな反応するんだろう、って思いながら、言ってやる。