忘れればいい。
全部、なかったことにして───あの優しい時間も、すべてなかったことにしてしまえばいい。
そうしたら───そうしたら、こんなに。
こんなに、苦しくなることなんて、なかったのに。
「……どう、して……っ。
なんで、いまさら……っ!」
じんわりと、目の奥が熱くなっていく。
ほろほろと、自分を守っていた壁が壊れていくような音が聞こえて。
だって、もう……お母さんは、いないのに。
優しく微笑むお母さんは、一緒にいろいろなことがしたいって言ってくれたお母さんは、
もう、いないのに。
自分だけが、自分だけが覚えている。
自分だけが───ずっと、忘れることもできないで。けれど、向き合うこともできないまま───ずっと。



