学校が終わった、夕方。

珍しくかかってきた父親の番号に、慌てて校門を出て───帰り道を歩いている途中だった。


しぶる俺に、父親はため息交じりに言った。


『別にいいんだぞ、八千代さんと暮らしたって』


「……」


くらり、と頭が揺れるような感覚に陥る。

ただ名前を聞いただけだというのに、胸の痛みが襲いかかってくる。



『……皐月?』


「……分かった。そのシライサンって人が良ければ俺は、別にいいよ」


『そうか』


抑揚のない無機質な声で父親が、そう相槌を打った。

向こうだって分かっているから、きっと気を利かしてくれたんだろう。


……俺が、今のままじゃ母親に会えないことを知っているから。