私は、もう一度くっと息を飲みこんで、言った。 「私から、彼のことを教えることはできません」 「……」 私がそういうと、八千代さんはそんなに表情を変えることはなかった。 分かっていたんだ、と心の中でつぶやきながら───私は続けた。 「名前も、性格も、何が好きなのかも───全部、知ってほしいけれど、思い出してほしいけれど、それは私が催促すべきことじゃない」 「……」 「だからお願いです」 「……お願い?」 私は一度頷いて、そして、言う。 「どうか……っ───」