下駄箱に向かう途中、皐月くんは目を細めながら、 「なーゆり」 「なに」 「夜、あれがいい」 「皐月くんの好物?」 「そう」 皐月くんの好物ってなんだろ。 あんまり自分から好き嫌いを言う人じゃないから、分からないや。 ……でも、そうやって言ってくれるのは、なんだか嬉しかった。 皐月くんにばれない程度の、口元のにやけを隠しながら聞こうと、口を開いたその時。 「───白井さん、おはよ」 爽やかな、聞きなれた声がした。