「父様…?私がわかりませんか…?」
何故父は私をそんな目で見つめるのかという疑問と、拒絶された様な空気に恐怖を覚えて葵の笑みは歪んでいきました。
「葵、お前には失望した。退治するべき妖怪と共にいるとは何と情けない。お前は異形だ。妖怪と同じだ」
「ーッ!?父様…!違います、悪しき妖怪は退治するべきです、けれど皆が皆害を成すわけではないのです。それに私はこの妖怪と契約をしているのです!共に居るわけではありません!」
「泰よ、あれはお前の娘なのか?」
長と思われる男が葵を指差して尋ねました。
「はいそうです」
「そうか、ならばあれは殺さんで生かす、皆よ、あれの隣に居る妖を殺れ」
「いや、やめて!!やめてよ!」
葵は顔を青くして必死に叫びました。
どうしてか、自分の存在が忘れられていたことよりも、私に危害がなされようとしている事に葵は絶望しました。
可笑しな事です、あんなに毛嫌っていた妖怪の私の身を葵は案じたのです。
村人達は私の体に斧や刀を叩き付けました。
私も愚かです、人間ごとき、何人居ようと殺せたのに、ただ黙って動きを止めていました。
葵の住んでいた村の村人だったからでしょう。
身体から血が流れるなんて、葵と戦った時以来でしょう、それ程に私は強かった。
人の姿ではなく本来の獣の姿に変わった私は、とても美しいでしょう。
白銀の毛は艶やかで、細身の身体はその毛に覆われています。
そして九つの尾はスラリと長く私の自慢です。
それら全てが赤に染まっていく。
人間にされるがままなんて、実に気分の悪いことです。
私はグゥウと低く唸り声を上げました、すると村人達は動きを止めましたが、私が無抵抗な事を良いことに再び攻撃を始めました。
「もうやめてっ…!!」
そんなとき、葵が私を庇うように両の手を広げて、村人達の前に立ちはだかりました。
朦朧としていく意識ですが、まだ死ぬわけにはいきません。
葵との契約が有る限り、葵を守らねば。
「何だ、お前妖怪を庇うのか?」
「そうよ、貴方達がやってることは間違っています。この妖怪は何も悪事をしていない!」
「だから何だというのだ!!妖怪とは悪なのだ!殺さねばならない!」
ビュッと唸りを上げて男の手から鋭利な矢が私目掛けて放たれました。
それを庇おうと跳ねた葵の腹にグサリ矢が刺さります。
とうとう私は黙っているだけにはいきませんでした。
情が移ったのでしょうか?
私は生まれてこのかたこんなにも怒りを覚えた事は有りません。
「穢い人間共よ、貴様らは私の物に傷を付け怒らせた。九尾の力に畏れを抱き死ぬが良い」
私は其処に居た人間達を噛み殺し、業火で焼き付くしました。
返り血で私の毛は綺麗な赤に染まって、それはまるで赤い衣を纏っている様でした。
「ご免なさい、私のせいで…」
葵は苦しそうに震える声でそう告げました。
「妖怪を嫌っているお前がそんな事を言うなんて珍しい、気味の悪いな」
葵はそれには答えずただ涙を溢しました。
「怪我、してるんでしょ…?」
「これは穢らわしい人間共の血だ」
実際かなりの深手を受けた事は事実ですが、九尾はこんな程度の傷で死にはしません。
その時の山はやけに静かで何故だか私は恐怖を覚えました。
「お前の方が、重傷だろう。私を庇うからだ、馬鹿者」
葵の腹には矢が突き刺さり、とても痛々しかったです。
私には解っていました、これが最期なのだと、人間はそれ程に脆いのだと。
「ねえ、私との契約覚えてるでしょ?」
「ああ、覚えてるさ」
「でも…ね、最期にね、お願い…があるの、あなたの名を教えて…前に聞いたときに…は教えてくれなかったから」
息も絶え絶えに葵は消え入りそうな声でそう言った。
「良いだろう、お前になら教えてやろう。私の名は久炎だ」
「そっか…まだ…生きて…たかったな…久炎…と…」
そう言って目を閉じた葵。
あっという間の死でした。
あんなにしぶとかったのに、自らの嫌う妖怪を庇って死ぬなんて、なんて愚かなんでしょう。
私は契約を破りました。
葵を喰らう事は有りませんでした。
人間なんて、穢いもの食べたくないからです。
嘘、本当は葵に情が沸いたから。
目が覚めた。
とても長い夢を見ていたのでしょう。
どんな夢かは良く覚えていません。
妖怪は長く生きるのです、過去に囚われている暇は無いのです。
なのにどうして涙が出るのでしょうか?
もう歳なのでしょうか?
あんなに綺麗だと思った山も、目に映りません。
何をしていても、楽しくありません。
山に咲く一輪の花を見て貴女を思い出すのです。
久炎、久炎と貴女が呼ぶ声が聞こえるのです。
嗚呼、どうしてそんなに儚いのですか?
……葵
何故父は私をそんな目で見つめるのかという疑問と、拒絶された様な空気に恐怖を覚えて葵の笑みは歪んでいきました。
「葵、お前には失望した。退治するべき妖怪と共にいるとは何と情けない。お前は異形だ。妖怪と同じだ」
「ーッ!?父様…!違います、悪しき妖怪は退治するべきです、けれど皆が皆害を成すわけではないのです。それに私はこの妖怪と契約をしているのです!共に居るわけではありません!」
「泰よ、あれはお前の娘なのか?」
長と思われる男が葵を指差して尋ねました。
「はいそうです」
「そうか、ならばあれは殺さんで生かす、皆よ、あれの隣に居る妖を殺れ」
「いや、やめて!!やめてよ!」
葵は顔を青くして必死に叫びました。
どうしてか、自分の存在が忘れられていたことよりも、私に危害がなされようとしている事に葵は絶望しました。
可笑しな事です、あんなに毛嫌っていた妖怪の私の身を葵は案じたのです。
村人達は私の体に斧や刀を叩き付けました。
私も愚かです、人間ごとき、何人居ようと殺せたのに、ただ黙って動きを止めていました。
葵の住んでいた村の村人だったからでしょう。
身体から血が流れるなんて、葵と戦った時以来でしょう、それ程に私は強かった。
人の姿ではなく本来の獣の姿に変わった私は、とても美しいでしょう。
白銀の毛は艶やかで、細身の身体はその毛に覆われています。
そして九つの尾はスラリと長く私の自慢です。
それら全てが赤に染まっていく。
人間にされるがままなんて、実に気分の悪いことです。
私はグゥウと低く唸り声を上げました、すると村人達は動きを止めましたが、私が無抵抗な事を良いことに再び攻撃を始めました。
「もうやめてっ…!!」
そんなとき、葵が私を庇うように両の手を広げて、村人達の前に立ちはだかりました。
朦朧としていく意識ですが、まだ死ぬわけにはいきません。
葵との契約が有る限り、葵を守らねば。
「何だ、お前妖怪を庇うのか?」
「そうよ、貴方達がやってることは間違っています。この妖怪は何も悪事をしていない!」
「だから何だというのだ!!妖怪とは悪なのだ!殺さねばならない!」
ビュッと唸りを上げて男の手から鋭利な矢が私目掛けて放たれました。
それを庇おうと跳ねた葵の腹にグサリ矢が刺さります。
とうとう私は黙っているだけにはいきませんでした。
情が移ったのでしょうか?
私は生まれてこのかたこんなにも怒りを覚えた事は有りません。
「穢い人間共よ、貴様らは私の物に傷を付け怒らせた。九尾の力に畏れを抱き死ぬが良い」
私は其処に居た人間達を噛み殺し、業火で焼き付くしました。
返り血で私の毛は綺麗な赤に染まって、それはまるで赤い衣を纏っている様でした。
「ご免なさい、私のせいで…」
葵は苦しそうに震える声でそう告げました。
「妖怪を嫌っているお前がそんな事を言うなんて珍しい、気味の悪いな」
葵はそれには答えずただ涙を溢しました。
「怪我、してるんでしょ…?」
「これは穢らわしい人間共の血だ」
実際かなりの深手を受けた事は事実ですが、九尾はこんな程度の傷で死にはしません。
その時の山はやけに静かで何故だか私は恐怖を覚えました。
「お前の方が、重傷だろう。私を庇うからだ、馬鹿者」
葵の腹には矢が突き刺さり、とても痛々しかったです。
私には解っていました、これが最期なのだと、人間はそれ程に脆いのだと。
「ねえ、私との契約覚えてるでしょ?」
「ああ、覚えてるさ」
「でも…ね、最期にね、お願い…があるの、あなたの名を教えて…前に聞いたときに…は教えてくれなかったから」
息も絶え絶えに葵は消え入りそうな声でそう言った。
「良いだろう、お前になら教えてやろう。私の名は久炎だ」
「そっか…まだ…生きて…たかったな…久炎…と…」
そう言って目を閉じた葵。
あっという間の死でした。
あんなにしぶとかったのに、自らの嫌う妖怪を庇って死ぬなんて、なんて愚かなんでしょう。
私は契約を破りました。
葵を喰らう事は有りませんでした。
人間なんて、穢いもの食べたくないからです。
嘘、本当は葵に情が沸いたから。
目が覚めた。
とても長い夢を見ていたのでしょう。
どんな夢かは良く覚えていません。
妖怪は長く生きるのです、過去に囚われている暇は無いのです。
なのにどうして涙が出るのでしょうか?
もう歳なのでしょうか?
あんなに綺麗だと思った山も、目に映りません。
何をしていても、楽しくありません。
山に咲く一輪の花を見て貴女を思い出すのです。
久炎、久炎と貴女が呼ぶ声が聞こえるのです。
嗚呼、どうしてそんなに儚いのですか?
……葵
