吐き出す愛







 いつか……そう、たとえば、大人になる頃。

 そういう時期が来れば愛は自然と分かるものだと信じているけど、だったら好きって気持ちはいつ知るものなのだろう。

 周りの同い年の子は、いつそれを知ったのだろう。

 片思いに悩む人。両思いに心を踊らせる人。
 有川くんみたいに、色んな人と付き合っている人。

 周りの人の恋の形は様々だけど、きっと誰もが初めて好きって気持ちを抱く瞬間はあったはずなわけで。

 そういうのって、いつ気付くのだろう。

 初恋すら経験していない私には、その気付きの感覚さえ分からない。

 “愛してる”と“好き”の違いに戸惑う以前に、“好き”がどんなものなのかさえ気付けないまま。

 だからずっと、答えを出せずにいた。

 有川くんからの気持ちへの、私の返事。



 有川くんと勉強した日から、3日が経ったその日。

 5時間目の授業は教科担当の先生が病欠ということで、珍しく自習の時間になった。

 受験が近いとはいえ授業内容はほぼ入試範囲を終えていたこともあって、その時間は課題もなく、各自が好きな勉強をしていいようになった。

 おまけに監督するような先生も配置されなかったから、生徒にとってはまさに自由な時間。

 だからクラスメートの大半が席を移動して仲が良い子同士で集まり、おしゃべりを楽しみながら一応教材を机の上に広げている。
 もちろんおしゃべりは、隣のクラスで授業をしている先生に注意されないように、小声だけど。

 あとはまったく教材を広げる気さえないような人達が、こっそり教室を抜け出すのを見た。
 きっと先生に見つからないような場所でサボり、こことは違った声量で気兼ねなく喋るのだろう。

 隣の席の目立つ彼も、教室から消えていた。