吐き出す愛



 外はもう暗く、夕日ではなくて街灯の光で歩道に影が伸びる。
 大小2つ並ぶ影は同じスピードで進むけど、どこも繋がっていない。

 手が寒いなあ、なんて。間抜けなことを思った。手袋じゃない温もりが恋しいなんて、何だか馬鹿げてる。


「……」

「……有川くん?」


 珍しく有川くんが黙ったままだった。さっきの質問が聞こえなかったのかと思って名前を呼んで、やっと気付く。

 有川くんは考え込むように遠くを見ていた。


「……愛って、何だろなって。何か急に、それが分からなくなって考えてた」


 考えた末にぽつりぽつりと出されたのは、やけに弱々しい声だった。だからとても、彼の言葉が何かを訴えてくる。

 真面目に考えていたんだって、信じられる。


「好きって気持ちと、何が違うんだろうなあ。日本語でも英語でもわざわざ使い分けなきゃいけねえなら、もっとはっきりとした違いがあれば良いのに。それがないのに、何を愛って言えばいいんだろうな。使い分けたくても、違いがなかったら使い分けれねえよ」


 遠くを見つめる、有川くんの瞳。

 そこには何が見えているんだろう。もしかすると何も見えていなくて、彼が分からないという愛を暗闇の中に求めているだけなのかもしれない。

 ……まさかあの瞬間に、あの答えが出せそうにない言葉の線引きを、こんなにも考えていたなんて。
 ちょっと意外で、だからこそあのとき私も惹き付けられたのかもしれないって思った。

 いつもは目立つ大きな存在が急にちっぽけに見えて、気が付くとふと、言葉にしていた。
 まだ何も分かっていない私なりの、精一杯の思いで。