吐き出す愛



 私の言葉を聞いて、有川くんは英語の長文を見ているとき以上に顔を歪ませていた。

 難しいという心の声が今にも聞こえてきそうで私は途方に暮れる。

 こんな答えのないような疑問、難しいよね。私だって正解なんて分からないもの。

 ……っていうか、そろそろ長文を訳そうよ。そっちの方が、絶対簡単だよ?


「“好き”と“愛してる”か……」


 そう呟いたきり一向に動こうとしない有川くんの手元を見て、さすがに溜め息を吐いた。

 ここまでこの疑問にこだわる理由がよく分からない。

 おまけに“愛してる”どころか“好き”の気持ちさえまだよく知らない私には、その違いなんてもはやどうでもいいように感じてくる。

 ……だけど、なかなか有川くんに勉強の再開を促すことが出来なかったんだ。

 “like”と“love”。

 ノートの余白に並んだ言葉を、無駄に真剣に見つめているものだから……。


 ――キーンコーンカーンコーン……。


 校内に鳴り響くチャイムの音。
 ノートを熱心に見つめていた有川くんも、その横顔に惹き付けられていた私も、同時に肩をびくりと上下させた。


「あっ、もう6時か……」


 壁にかかっている無機質な時計を見れば、もうそんな時間だった。
 図書室と学習スペースの閉鎖時間は、まさに今、針が示している時刻。


「……帰ろっか」


 有川くんのそんな言葉を合図に、身の回りの片付けを始める。
 ノートを閉じた有川くんの表情はもう、何も考えていないみたいだった。



「……ねえ、さっきチャイムが鳴る直前、何考え込んでたの?」


 学習スペース、それから校舎を出て、成り行きで2人で歩く帰路。

 さっきはその場で聞こうとしなかったのに、ふとそんな質問を投げかけていた。