それでもやっぱり迷いが拭いきれない私に、嬉しさを前面に押し出した笑顔を向けられる。


「ありがとな! 俺今、すっげー嬉しい!」


 小さくガッツポーズをしている姿に、何だか拍子抜けてしまった。

 だって、こんなことで喜ばれるとは思わなかったから。ちょっと大袈裟だとさえ思った。

 ……でも、私の想像を越えた反応をしてくれるのが新鮮で。
 有川くんが私を新鮮だと言っていた意味が、ちょっとだけ分かったような気がした。


「……あっ、やべー! 時間!!」

「時間?」


 喜んでいるかと思ったら突然大声を出したりして、有川くんは何だか騒がしい。

 でも有川くんが腕時計を確認している姿を見て、私の口からも同様に大きな声が漏れた。


「しまった! 門限……!」


 現在、午後6時20分。
 我が家の門限までラスト10分を、腕時計の針が刻んでいた。早くもカチリと進んだ長針に焦りが募る。


「ごめん! 俺が話し込んだせいだよな。佳乃ちゃんの家って、ここから遠いっけ?」

「少し遠いけど……、走れば近いかも」

「じゃあ、走ろう! 今からでも間に合うだろうし、急いで帰ろうぜ!」

「う、うん……!」


 有川くんに手を引かれるままに足を動かした。
 夜景として見ていた光の群れに向かって進んでいく。


 きっと急いで走って帰れば、ギリギリ間に合うだろう。
 でも正直なところ……そんなに急ぐ必要もなかった。

 だって我が家には一応門限があるけど、それを必ずしも正確に守らなければならないっていうほど厳しくはないから。