「俺、恋愛の楽しさを教えるって言ってデートに誘ったけどさ。それ全部、口実だった。本当は佳乃ちゃんに少しでも俺に興味持って欲しくて……だから誘ったんだ」


 知らされる、デートの理由。

 てっきり有川くんは恋愛経験がない私を面白がって、それでこの不可解なデートに付き合わせてきたのだと思っていた。

 だけど、違った。からかったりとか、そういうのじゃなくて。
 ちゃんとした理由が、存在していたんだ。


「そりゃあ、佳乃ちゃんに恋愛の楽しさを知ってほしいとは思ってるよ。でもその初めてする恋愛の相手は、俺であってほしいって思ったんだ。……だからさ、佳乃ちゃん。もう少し本気で俺と向き合ってほしい。もしかするとそれで、俺のことが嫌いじゃなくなるかもしれないだろ? だから告白の返事は、俺のことを知ってから決めて欲しいんだ」


 真っ直ぐ見つめてくる瞳のように、有川くんの言葉は直接私の心に届いた。

 だからこそ私も、自分の気持ちに真っ直ぐ向き合わなくちゃいけない気になる。


 ……拒否することは、きっと簡単だ。

 遠慮なく私の中にどこまでも踏み込んでくる勢いがある彼だけど、さすがにここではね除ければ、きっと2人の間の一線は保たれるはず。

 ――だけど。


「……分かった。もう少し、考えてみる」


 そう答えていたのは、きっと私の心の揺れのせいで。
 今日1日で、有川くんへの嫌悪感が少しだけ減ったせいだと思った。

 だからこそ必死に訴えてくる彼の言葉を、すっと素直に受け入れて。信じてみる方に賭けてみたくなったんだ。