吐き出す愛



 有川くんはうーんと首を傾げて悩む素振りを見せるけど、すぐに答えた。


「あえてどこが好きかって言うなら、全部だよ。佳乃ちゃんの全部を、俺は好きなんだ」

「何、それ……。意味が分からない」


 そんな頼りないものじゃなくて、具体的な証拠が欲しかったのに。全部って、何なの?

 有川の気持ちも意図も、急激に分からなくなってしまった。疑いだけが増していく。

 そんな考えが顔に出ていたらしく、有川くんはさらりと言ってきた。


「人を好きになるって、そういうもんだよ。理由なんて、言葉に表せないんだ。佳乃ちゃんも恋愛したら、きっと分かるって」

「……何それ、よく分からないよ。私が恋愛したことないって言ってるから、からかってるの? どうせ好きだなんていうのも、軽い気持ちなんでしょう?」

「何でそうなるんだよ! 俺今日、本気で好きな人がいるって言っただろ? それが佳乃ちゃんなんだって。俺のこと、ちょっとは信じろよ!」


 あまりにも疑ってばかりいる私に苛立ったのだろう。少し声を荒らげてそう言われた。

 突然の大きな声に身を縮めると、有川くんははっとしたように眉を下げていた。すかさず、ごめんと呟かれた。

 ……違う。有川くんは謝る必要なんてない。悪いのは私だ。
 一方的に彼を嫌って信じられずにいる私が悪いんだ。

 戸惑いなからも、しっかりと首を横に振った。


「……私の方こそ、ごめんなさい。ただやっぱり、どうしても信じられない気がして……」

「それは、俺のことが嫌いだから?」

「……えっ?」

「知ってるよ。佳乃ちゃんが俺に良いイメージを持ってないことぐらい。ずっと見てたからこそ、それぐらいはとっくに分かってた」


 悲しみを含んだ表情が、暗闇の中でより鮮明にその感情を伝えてくる。申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。