つまり、私のロングヘアーの姿を知っているとすれば、中1の春の一時期に見たとしか考えられなくて……。
有川くんがそんな頃の私を知っていることにびっくりした。
だって中3になるまで有川くんとは同じクラスじゃなかったし、私みたいなタイプが違う女子のことなんて、眼中にないと思っていたんだ。
現に私だって、ずっとクラスが違った人のことはあまり知らない。
さすがに有川くんみたいに目立つ人は、優子から幼馴染みだと聞かされる前からよく知っていたけどけれど。
……それにしても、よく覚えてるなあ。
関心と戸惑いを含んだ疑問が湧き上がる。
するとふと、髪の毛から手を離された。そしてそこに注がれていた視線が外されたと思うと、今度は真っ直ぐ目が合った。
どことなく真剣さを帯びた瞳が、これから重要なことを言われるって予感させる。
「……知らなかっただろ? 俺、ずっと佳乃ちゃんのこと、見てたんだよ」
「ず、ずっと……?」
「そう、ずっと。初めて見かけたときから」
有川くんが言う“初めて”がいつ頃の話なのか。それが分からないわけでもなかった。
だからこそ、どう反応したらいいのか悩んでしまう。逃げ出したいのに、彼の手と瞳が私を捕らえて離してくれない。
「なあ、佳乃ちゃん。俺がどうしてずっと佳乃ちゃんを見てたのか、分かるよな?」
「えっ、と……」
「恋愛したことなくても、それぐらい分かるよな? それとも、ちゃんと言わなきゃ分かんねえ?」
質問に答えることが出来ずに目を逸らそうとしたら、顔を覗き込まれて邪魔をされる。だから私はどうしても、有川くんと向き合っていなくちゃいけなかった。



