吐き出す愛



 ジャリ、という地面の土が擦れる音ではっとする。有川くんが私と向き合っていることに気付いた。心なしか、2人の距離が狭まっている。

 有川くん、と名前を呼ぼうとしたときにはもう、繋いでいない方の彼の手が伸びてきていた。

 後退りさえも間に合わない。
 さらり……と、有川くんの手のひらの中で私の髪が揺れる。


「佳乃ちゃんって、綺麗な髪してるよな」

「そっ、そう?」


 一体、いきなりどうしたのだろう……。

 街灯の灯りだけでは分かりにくいはずなのに、有川くんは掴んだ髪の毛の束をまじまじと見つめていた。
 肩より下に少ししか伸びていない髪を見る瞳は近くて、変に緊張してしまう。

 見つめられて、触れられているそこから、熱が出てきそうだ。


「うん、すっげーさらさらしてて、俺の好み」

「……っ、それはどうもありがとう」

「でも佳乃ちゃん、今よりも長い方が似合ってるよ。もっと長い頃があったけど、あの頃の方が似合ってた」

「……え?」


 あっさり言われた言葉に、一瞬思考が麻痺する。

 ……ちょっ、ちょっと待って。
 私が最後に髪の毛をロングにしていたのって、いつだったっけ……?

 記憶を古いものまで遡る限り、最後にロングヘアーにしていたのは中1の春だ。
 小学校の高学年から中学校に入学して間もない頃まで、ずっと切らずに伸ばしていた。

 けど中1の4月中旬にバドミントン部に入部してから、ばっさりと肩より上の位置まで切ったんだ。結んでいても、動くときにあまりにも邪魔だったから。

 だからそれから部活を引退した夏の終わりまでは、ずっとショートヘアー。ここ最近になってまた少し伸びてきたけど、中1の頃に比べたらずっとが短い。