「佳乃ちゃんにとっては普通に出来ることかもしれねーけど、そういうことが出来ない子も居るんだよ。現に今まで女子をあのたこ焼き屋に連れていったときは、クレープとかアイスが食べたいって文句ばかり言われた。しかも、奢ってもらうのは当たり前って態度だし。別に奢るのは構わねえけど、やっぱりお礼とかはちゃんと言わねーとって思うじゃん? だからそういう子たちには綺麗なものを見せるのもつまんねーし、今までこの場所を教えたことはないよ。この場所を教えたのは、佳乃ちゃんだけだから」
「そう、なんだ……」
何やらまた上手く口車に乗せられている気がしなくもないけど、納得したように頷いておいた。
……何だか、やっぱり有川くんと私は違うんだなあ。
私の世界の中では当たり前として捉えていることも、有川くんの世界では新鮮なこととして捉えられる。
その差って、結構大きい。
今までも有川くんと私が違いすぎるのは分かっていたつもりだけど、こうやって考えると改めて違うって実感した。
……そうだよ。
だから私はいつだって、有川くんと関わろとしてこなかったんだ。
違いすぎる彼と関われば、私の中で固定されているはずの世界が歪んでしまう気がするから。
どんなに安定しているような世界も、ちょっとしたきっかけがあれば、簡単に反転してしまう。
それが怖いからずっと、有川くんと自分の間に一線を張っていた。
それなのに今日は、その一線のすぐギリギリのところまで歩み寄りすぎてしまった。
これ以上有川くんと関われば、きっと後戻り出来なくなる……。
そんな嫌な予感が胸を掠めて、ぐっと意識を固めた。
――だけど彼は、お構い無しに私の中に入り込んでくる。
一線なんて、容易く飛び越える勢いで。



