「あっ、佳乃ちゃん。俺のこと疑ってるだろ?」
疑問を訴える視線に気付いた有川くんが、おどけた声でそう言う。
でも絡んでいる指先に力を入れると、打って変わって真面目な声になった。
「……信じてもらえねえだろうけど、本気で佳乃ちゃんとのデートが一番楽しかったよ。何か、一緒に居てすげー良い気分になれたんだ。新鮮な感じがして」
「新鮮な感じ……?」
「そう。俺には佳乃ちゃんの全部が新鮮だった。たこ焼きを奢れば文句言わずに食うし、遠慮や礼だって言える。このマスコットを取ったときもそれは同じだったし、喜んでもらえたときは俺の方が嬉しくなったぐらいだ。ここの夜景を見せたときも想像以上に喜んでくれたし、だからこそ教えて良かったって思えたんだよ。新鮮だって思うと同時に、嬉しかったんだ」
お互いのカバンにつけたカエルのマスコットと夜景に、順番に目を向ける。
真面目な声だけど、私の反応を一つ一つ語る表情は、驚くぐらい優しかった。
だから有川くんが私の些細な行動をよく見ていたのも、それに好感を抱いてくれているのも、ちゃんと本音なんだって思える。
でも有川くんにとっての新鮮さは私からすればどれも当たり前のことで、何だか拍子抜けしてしまった。
「そんなの……私のこと、買いかぶりすぎだよ。遠慮したのはお金を持っていなかったら当然することだし、何かを奢ってもらったならお礼ぐらい言うんじゃないの? 綺麗なものを見たら、やっぱり綺麗だって言うと思うし……」
謙遜などではなくて、本気でそう思ったから言った。
すると有川くんは苦笑いをする。



