「何か、佳乃ちゃんに教えて良かった。そうやって言ってもらえると、すげー教えた甲斐がある」
有川くんはしみじみとこう言っていて、何だか大袈裟だなあって思った。
でも私だって、有川くんの言葉がじわりと心に染み渡っていく。
お互いにこれといった話題を出すわけでもなく、しばらく黙って夜景を見ていた。展望スペースには古ぼけた木製のベンチが1つだけあるけど、私たちはずっと柵に寄り添っていた。
座っているよりも立っていた方が、きっと町の光がよく見える気がしたから。
綺麗なものを見ているときは、不思議と時間が早く経つ。
今もそれは例外ではなくて、時間を確認するとタイムリミットが迫っていた。有川くんもそれが分かっていたのか、ぽつりと口を開く。
「佳乃ちゃん、今日のデートは楽しんでもらえた?」
「えっ?」
「今日は俺と居て、楽しかった?」
有川くんの問いかけにドキリとした。
……そうだ。
有川くんと過ごした放課後の時間は、一応デートってことになってたんだっけ。
別にそのことを忘れていたわけじゃない。
ただ、いつの間にか。
有川くんと過ごす数時間に違和感を覚えずに、自分の中で受け入れていたことに驚いた。
佳乃ちゃんって、馴れ馴れしく名前を呼ばれることも。当たり前のように手を繋ぐことも。
色々と奢ってもらったり、タメ口で話すようになったりしながら、少しずつ有川くんが、身近に受け入れられる存在に変わっていたんだ。
嫌いなはずだったのに。
遠くから見かける有川くんには嫌悪感しか抱いていなかったのに、すぐ側で有川くんに関わると、ちょっとだけ、良い部分も見えた気がする。
それはちゃんと、返事に含まれていた。
「……おっ、思ってたよりも、楽しかった」
この気持ちに嘘はないよ。



