とても、胸が苦しい。……でも、嫌な苦しさじゃない。
こんな感覚は彼に関わって知りたいわけじゃないのに、不思議ともっと味わっていたいとさえ願ってしまう。
……ああ、やっぱり。
私は、おかしくなっちゃってるんだ。
さすがに有川くんを至近距離で見ていることにも限界が訪れて、ぎゅっと強く瞼を閉じた。
それでも落ち着かない鼓動がうるさい。
胸の苦しさがピークに達しようとしたとき、ふわりと風が動いた。続いて頭に、大きなぬくもりを感じる。
「ごめんごめん。反応が良いからちょっといじめすぎた」
「……」
恐る恐る目を開けると、さっきまでとは違って困り顔の有川くんがそこに居た。迫ってくるような有川くんとは違い、やっと気持ちが落ち着き始める。
有川くんは私の頭に乗せていた手を緩やかに下ろすと、窺うように顔を覗き込んできた。
「ごめん、怒った……?」
「おっ、怒ってはないよ。ただ、びっくりした……」
どぎまぎしながら正直にそう答えると、本当にごめん、とさらに有川くんは謝った。
そこまで謝らなくても良いのに……。
暗くなった有川くんの表情を見て、そう思いながら不思議に感じた。
変な人だ。
好き勝手な行動をするくせに、こうやって急にしおらしくなるのだから。
そういえば前にも、こうやって機嫌を窺ってくることがあったっけ……。
あの日も怒ったかどうかを確認してきた。
確認するぐらいなら、最初からずかずかと行動しなければ良いのになあ。
有川くんってときどき、何を考えているのか分からなくなる。
優子は有川くんの本心を見て、と言っていたけど、そもそもどの有川くんの姿が本心なのかも見分けがつかない。
有川くんって、少し謎だ。



