吐き出す愛



 カエルは実物も結構好きな方だ。ぬめっとした皮膚はさすがに触る勇気はないけど、ぴょんぴょん跳び跳ねる姿は可愛いと思う。
 あとくりくりの目は特に可愛いから、それが再現されているこのゆるキャラがとても好きなんだ。

 優子にはよく、趣味が悪いと言われてしまうけど……。

 人気ないのかな、このゆるキャラ。現に他の景品に比べて、山積み状態なわけだし。

 目を離すことが惜しくてしばらくじっとカエルを見つめていると、有川くんがはっきりとした声で言った。


「よし! 佳乃ちゃんのために俺が取ってやるよ」

「えっ、別にいいよ! お金もったいないし……」

「遠慮すんなって。それに言っただろう? “佳乃ちゃんのために”って。俺が佳乃ちゃんのために取ってあげたいんだから、まーた変なところで気遣ってんじゃねーよ」

「いたっ」


 コツン、と。おでこを指先で弾かれた。
 じんわりと痛みと熱を宿すそこを手で押さえながら有川くんを見れば、得意気に笑っている。


「俺、UFOキャッチャー得意なんだよ。だから黙って期待してろ」

「何それ……」


 私の制止の言葉なんて完全に無視だ。嫌でもこっちが諦めるしかなくなる。
 有川くんは小銭の投入口に100円玉を放り込むと、真剣な目付きでマスコットを見た。


「何色がいい?」

「えっ……ピンク」

「りょーかい、ちょっと待っててくれよな」


 途端に話しかけるなというオーラを放つので私も黙って見守る。つい一番欲しい色を答えてしまったけど、大丈夫なんだろうか。

 有川くんは狙いを定めたらしく、ボタンを押してアームを横に動かした。そして機械を横から覗き込み、アームを奥へと動かす。アームはカエルの山の頂上辺りで下降した。


「……あっ」


 マスコットの隙間に入り込んだアームが上昇したとき、思わず声が漏れた。
 ガラスに映った有川くんの表情は楽しそう。